海底の王国

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その頃、カナちゃんはひとりぼっちで自分のおうちにいました。 大きな二枚貝のベッドに身を放り込み、数十冊もの分厚い本の束を順番に読み漁っていました。 (いつか絶対、見返してやるんだから) カナちゃんの夢は、学校の先生になることでした。 夢を叶えるために、誰よりも努力しています。 夢中で本を読んだり勉強したりしている時間だけが、つらい現実を忘れることができる瞬間でした。 海草でできた本のページがボロボロになるほどの熱中ぶりです。 けれども本を読み終えてパタンと閉じたとき、ふとあの日のことが脳裏をかすめます。 (パパ、ママ、もしもあのとき、私に力があれば……) カミツキザメの大群。 海に広がる赤い染み。 肉片。 海水に混ざる、幼いカナちゃんの涙。 (王国はサカナンチュ全員を守ってくれない。とくに私たちのような変異種のことなんか、どうでもいいと思っているのよ。だけど私が変えてやる、みんなの考え方を、こんな世界を) カナちゃんはベッドから這い出て、部屋の鏡を見ました。 (だから、もっと頑張らなくちゃ) うろこレンズを取り替え、本が山積みのベッドにまた向かうのでした。
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