11人が本棚に入れています
本棚に追加
その頃、カナちゃんはひとりぼっちで自分のおうちにいました。
大きな二枚貝のベッドに身を放り込み、数十冊もの分厚い本の束を順番に読み漁っていました。
(いつか絶対、見返してやるんだから)
カナちゃんの夢は、学校の先生になることでした。
夢を叶えるために、誰よりも努力しています。
夢中で本を読んだり勉強したりしている時間だけが、つらい現実を忘れることができる瞬間でした。
海草でできた本のページがボロボロになるほどの熱中ぶりです。
けれども本を読み終えてパタンと閉じたとき、ふとあの日のことが脳裏をかすめます。
(パパ、ママ、もしもあのとき、私に力があれば……)
カミツキザメの大群。
海に広がる赤い染み。
肉片。
海水に混ざる、幼いカナちゃんの涙。
(王国はサカナンチュ全員を守ってくれない。とくに私たちのような変異種のことなんか、どうでもいいと思っているのよ。だけど私が変えてやる、みんなの考え方を、こんな世界を)
カナちゃんはベッドから這い出て、部屋の鏡を見ました。
(だから、もっと頑張らなくちゃ)
うろこレンズを取り替え、本が山積みのベッドにまた向かうのでした。
最初のコメントを投稿しよう!