海底の王国

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(また先生や親に叱られちゃうな) ナンチュ君は、授業を無断で欠席してしまいました。 学校へ行く途中、体の調子が悪くなって、定刻に間に合わなくなったのです。 どうせ遅刻するくらいなら、いっそのこと休んでしまえと、投げやりになってしまいました。 疲れ果て、海流に身を任せ、学校とは逆方向に流されてしまったナンチュ君。 (僕はどうしてここにいるんだろう?) ナンチュ君は、クラゲのようにフワフワと漂いながら、考えました。 (僕の居場所は、どこにもないんだ) うろこレンズが濁り、視界が狭くなっていました。 うろこレンズは消耗品で、二、三日に一度、新品と取り替えなければなりません。 だんだん濁って、見えにくくなるのです。 ナンチュ君はうろこレンズの取り替えを怠っていました。 (先生は、僕のことを怠け者だと決めつけているんだ。根性なしだと蔑んでいるんだ。それもこれも、こんな体に生まれたせいで……) ナンチュ君は「変異種」でした。 父方の家系が、代々変異種なのです。 数千匹に一匹、変異種と呼ばれるサカナンチュが誕生することがあります。 「尾びれ」のかわりに「脚」が生えてくるパターン。 えらの機能が弱く、海底生活では無意味な「浮き袋」を持つタイプ。 あるいは、全身を覆う「うろこ」がなく、むき出しの「皮膚」をさらす魚。 さまざまな変異種が確認されています。 ナンチュ君は、浮き袋を持って生まれました。 えら呼吸が他の個体よりも下手で、疲れやすく、つねに気だるい気分に悩まされていました。
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