海底の王国

5/12
前へ
/60ページ
次へ
(どこへ行ったの、ナンチュ君?) サカナンチュの子ども、カナちゃんは、学校が終わると、クラスメイトのナンチュ君を探しにいきました。 ナンチュ君は、たびたび学校を休みました。 最近は、無断欠席が目立っています。 ナンチュ君は学校で孤立していました。 カナちゃんだけが唯一の友達でした。 カナちゃんも、ナンチュ君だけが心を許せる相手でした。 ふたりとも変異種だったので、お互いに通じるところがあったのです。 「ナンチュくーん、どこにいるのー?」 カナちゃんは大声で叫びました。 声の波紋が水中に広がります。 (きっと上のほうを漂っているに違いないわ) 浮き袋のある個体は、海底にしっかり尾びれをつけて踏ん張ることが苦手です。 知らず知らずのうちに、上へ上へと泳いでしまいます。 前にナンチュ君が失踪したときも、サカナン城の監視塔ギリギリをふらふらしていました。 監視塔よりも高い位置にいるところを兵士に見つかったら、ただちに捕らえられてしまうでしょう。 (はやくナンチュ君を見つけなきゃ!) カナちゃんは尾びれで海底の道路を蹴り上げ、全速力で上へ向かって泳ぎ出しました。 カナちゃんは、監視塔の壁面に沿うように、下から上へと進んでいます。 見張りの兵士たちの下っ腹を順番に覗き込むような角度で近づき、垂直にすれ違っていきました。 カナちゃんは必死でナンチュ君を捜索しました。 (居たー!) ついにカナちゃんは、ナンチュ君らしい浮遊物を発見しました。
/60ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加