海底の王国

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「こんなところで何していたの?」 カナちゃんは、ナンチュ君に優しく問いかけました。 「上を見ていたんだ」 ナンチュ君は、漂いながら答えました。 「上には何があるのかな?」 「えっと、海の終わりがあって、それから空気の世界があるの。私たち魚は、空気の世界では生きていけないわ」 カナちゃんは、海草でこしらえた書物を鞄から取り出しました。 「空気の世界には、ニンゲンという恐ろしい怪物がいて、網で魚を捕まえちゃうのよ。私たちサカナンチュがいくら賢くても、ニンゲンには敵わないわ」 読書家のカナちゃんは、本に書いてあったことを口にしました。 「そんなことは知ってるさ。先生も、パパもママも同じことを言ってたよ」 ナンチュ君は、浮き袋に溜まったガスを口から吐き出しました。 吐き出すと、気分が少し楽になりました。 「でも、誰も実際に確かめた魚はいないじゃないか。先生たちは、本当に正しいのかな?」 「確かめた魚はいるわ。先代サカナン二世の頃の偉い学者さんたちよ」 「そんなの大昔の出来事さ。昔の魚が言っていたことを、そのまま信じているだけじゃないか」 カナちゃんは困り果てました。 本の知識や先生の言葉では、ナンチュ君を説得することができません。
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