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ナンチュ君とパパは、パパの部屋で語り合いました。
二匹きりで対話をするのは、数年ぶりのことです。
「知っての通り、パパの家系は変異種が多い。パパのおじいちゃんも変異種だった」
口下手なパパは、今までナンチュ君に伝えていなかったことを、ポツリポツリと話しはじめました。
「見てごらん、パパには『尾びれ』のかわりに『脚』が生えている」
脚は泳ぎの邪魔になります。
大抵は、生まれてすぐに手術で切除されます。
「パパが子どもの頃、先生に言われたよ。変異種は劣等種だって。みんなそう信じている。変異種で得することなんて、ひとつもない。脚のせいで、パパは今でも泳ぎが苦手だ」
「パパの両親は、どうしてパパに切除手術を受けさせなかったの?」
「パパの両親はおおらかな性格だったんだ。サカナンチュはみんなそれぞれ違っていて、どれにもいいところがあるんだと教えてくれた」
パパは胸びれで自分の脚をなでました。
「小さい頃はよくいじめられたよ。脚なんてものがあるばかりに、こんな目に会わなきゃいけないのかと、どれだけ恨めしく思ったことか。けれども今は両親に感謝しているよ」
「え、感謝? どうして?」
「そうだよ。パパの両親はもうこの世にいないけれど、いつも心の中で話しているよ。『脚を残してくれてありがとう。これもひとつの個性として受け入れ、自分の生き方に自信を持てたよ』って」
ナンチュ君はパパの言っていることがわからず、首をかしげました。
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