第1章

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 ふっと腕時計を見ると、十一時四十五分だった。  やばい! と心の中でつぶやきながら会社を出て、早足で大衆食堂〈まんぷく亭〉に向かう。  ここはウマイうえにボリュームも申し分なく、しかも安いのだ。だから、十二時を少しでも過ぎると行列ができてしまう。  よかった! ちょうど席がまだ一つだけ空いていた。  オーダーするのは〈唐揚げ定食〉だ。地鶏を使い、ピリ辛に味つけした唐揚げは何度食べても飽きない。  小皿からこぼれそうなほど盛り付けられたポテトサラダと、この店のご自慢である豚汁が付いて六八〇円ナリ。  注文を取りに来たユミちゃんが、 「ごはんは大盛りですね」とにこっと微笑んでくれる。  彼女の笑顔は最高の食前酒だ。この店に来たくなる理由の一つ、いや、もしかしたら最大の理由はユミちゃんかもしれない。  待つこと七分。唐揚げ定食が運ばれてきた。この店の唐揚げはとても大きい。小ぶりのジャガイモほどあるのではないか。  では、まずは豚汁で口を湿らせて……、と椀を手にした時、ぼくの横に座った人にもユミちゃんが唐揚げ定食を運んできた。     
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