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「別にどうでもいいことなんだけどね、ちょっと気になったから聞くけど、唐揚げ定食の唐揚げっていつも何個だっけ?」
ユミちゃんは微笑みながら、
「四つですよ」と答える。
「そうだよね。四つだよね」
「えっ、今日、足りませんでしたか?」
とユミちゃんは申し訳なさそうな顔になる。
「いやいや、ちゃんと四つあったよ。でも、ぼくの隣のおじさんの唐揚げが三つだったから……」
「ミドリちゃんだ」
とぼくたちの会話を聞いていた店の大将の声が震える。
「ミドリちゃん?」とユミちゃんは怪訝な声で大将に尋ねる。
「ああ、ミドリちゃんっていっても男なんだけどね。つまりオカマさんだよ。もう十年も前になるかなあ。ミドリちゃんはこの店の唐揚げ定食が大好きで、それこそ毎日のように通ってきてくれていたんだ。けど……」
「けど、なに?」ユミちゃんの顔に不安が広がる。
「交通事故で亡くなってしまってね。それから時々あるんだよ。四つ盛り付けた唐揚げが、お客さんに出した時には三つになっていることがね。きっと運んでいるうちにミドリちゃんが……」
「こわい!」と叫び、ユミちゃんはぼくに身体を寄せる。
「なるほど、そういうわけだったんですね。でも、亡くなった後もこの店の唐揚げを食べたくなる気持ちはぼくにも分かるなあ。あれ、でも、なんであの若い人の唐揚げは五つなんだろう?」
とぼくが大将に尋ねると、
「そういえば、ミドリちゃんはああいう顔の男がタイプだったな」と大将は遠い目をする。(了)
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