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まったくお嫌では無いのだろうか。辰之助さんを待つ香織様。辰之助さんがどんな形でもお戻りになったとき。
「お嫌ではないですか?」
「何が?」
「他人の僕たちがいることがです。お嬢様は、辰之助さんとお過ごしになったここへ、辰之助さんがお帰りになったとき、他人の僕たちがいるのはお嫌ではないのでしょうか。……辰之助さんも」
香織様は、お嬢様は嫌では無いのか。正直、もう骨すらお戻りにならないかもしれない。しかし、だ。万に一つお帰りになったとき。
僕たちがいることをどう、思われるだろう。
ずっと考えていたことだ。家族で。僕たちが家を継ぐこと自体構わないとして、お嬢様はどうなのだろうかと。僕たちを、真意は邪魔に感じてらっしゃるのではないか。だってご当主が新しく婿を取らなかったにせよ、僕たちを後継者に据えると言うことは、もう、辰之助さんの存在をあきらめたことになるではないか。
居場所を、奪ってしまったことになるのではないか。
ゆえに。
僕は、ずっと気掛かりであったのだ。
名付け親でも在る香織お嬢様に苦しい想いはしていただきたくない。きょとんとしたお嬢様を僕は見詰めた。次いで苦そうに笑ったのを見て胸が痛んだ。余計なことを言ったかもしれない。でも、だけど、……僕が言い訳を胸中でしていると。
「わかっているのよ、辰太。もうね、辰之助さんは戻らないと思うの。わかっているの。これはね、私の我が儘」
ふふっと笑んで香織お嬢様が言う。“我が儘”? 僕が不思議そうな表情でいたのだろう。お嬢様は窓の外に目線を移し教えてくださった。
「辰之助さんが亡くなったことはとうにわかっているの。でもね、私は待っていたかったのよ。そうだから、お父様がこうして辰太たち家族を呼んだことも。お父様が、私の気持ちを配慮してくださった。けど、もしかしたらお父様も辰之助さんをあきらめられなかったのかもね」
だって、辰之助さんを気に入り過ぎて、私と結婚させようとしたんだもの。苦笑しながら語る香織様の目は門に焦点を合わせて。
「わからないかもしれないけど。私たち、勝手に親が盛り上がって結婚決めたでしょう? めずらしいことじゃないけどね、辰之助さん言ったのよ
“帰ったらちゃんと話し合おう”
って。私、訊き忘れたの。
『何』を話し合うのか」
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