あおの、そら。 ─The blue sky cut off by the window.─

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 結婚の『何』を話し合うのか。  お互いの気持ちか。結婚そのものについてか。  二人の決断か。  父親の決定を覆すなんてまず有り得ない時代だ。だのに、辰之助さんは「話し合おう」と言ったらしい。お嬢様は笑う。「困ってしまったわ」聞き忘れて、気になって、だから、待たずにいられないのだと。 「こんな私が結婚なんて出来ないわ。大きな家の一人娘だって言うのに我が儘でしょう? ね、辰太が、辰太の家族がいてくれて良かったわ」  あ、家が焼け野原になったことを良かったとは言えないわね。お嬢様は不用意な発言と口を押さえ。  よく晴れた、青い空を仰がれた。  辰之助さんは、十年経っても、二十年経っても、帰って来なかった。無事父さんは阿佐前を継ぎ、ご当主は数年後安心なさったのかご逝去され、鳴海さんもその数箇月してから亡くなられた。  お嬢様は。 「お嬢さ……、香織さん。お夕餉いただきましょう」  父が年老い、僕が阿佐前を継いだころ、お嬢様もお年を召されたせいかお体を壊すことが多くなった。寝ていることも多くなった。  多分、若い人にはわからないかもしれないが、戦前戦後、巷では人の寿命はだいたい平均五十年前後と言われていた。戦後食文化や生活水準の向上で寿命は延びて行ったし戦前だって長生きな人はいたけれどやはりまだまだ、短命な人はいた。  お嬢様も、そのようだった。 「ありがとう、辰太さん」  僕が成長するにつれ僕は“辰太”から“辰太さん”になった。大人として認めてくれているのだろう。僕は微笑するお嬢様、香織さんに笑い返した。 「お体、どうですか?」  食事を乗せたトレーをベッドテーブルに置いて体を起こす手伝いをし僕は尋ねた。香織さんは笑っているだけだ。節々が痛いのかもしれない。  香織さんは床に伏せっていることが多くなった。現在はベッドにいる間隔が長くなったみたいだ。  そうでも、香織さんの目が窓から離れることは無い。 「あら、美味しそう。希恵(きえ)さんにお礼言わなくちゃ」
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