まどろみの中に

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「お待たせいたしました」 「船の準備ができましたので、ご乗船ください」 初老の葬儀屋が船までの道のりを案内してくれた。 外は昼間、空調の利いていた室内とは違い、熱い日差しが私の体を照らしつけてきた。 ―――――――――――――――  船の上は涼しい潮風に包まれていた。 船首から遠くを見つめると、青い空と深く沈みこんだ海の青が、地平線の雲の白さによって分断されているのがわかる。 「着きました。こちらで散骨を行ってください」 係員にそう言われると、一つの白い皿を手渡された。 そこに彼女の遺骨を入れ、花を飾り、ゆっくりと海に流すそうだ。 私は彼女を皿の上に乗せ、花を飾ってやると、一度深く目を瞑った。 あの時の、初めて会った時の太陽に照らされていた彼女を、大学で話しかけられずに目で追うだけだった彼女を、そして、病に伏せった体で私に死後を頼み「ごめんなさい」と謝ってきた彼女を。 皿をゆっくりと水面にもっていく。 時折立つ波が、そのまま彼女をさらってしまわないか心配になったが、そんなことは無かった。 そっと彼女を海に浸ける。水面に浮き立つ泡と一緒に花が浮き、そして彼女だった真っ白な灰が、海の青にゆっくりと溶け込み、浮上しては沈み、浮上してはを繰り返しながら、その青に静かに溶け込んでいった。 「ご愁傷さまでした」 係員がそういうと、船を動かすようにと命令を出し、さっさと船首に戻ってしまった。 私はずっと、彼女が海に溶け込んでいく様子を、ただただじっとと見つめては、こぼれる涙を海の青に落とすしかできなかった。
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