まどろみの中に

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 着いた先での、あの真っ白な建物に充満する薬品独特の匂いを、私はまだ覚えている。 薬品の匂いに包まれた部屋の中で、彼女は窓際のベッドに寝かされ、窓から見える青い空を瞳に写していた。 私が部屋に入りドアを閉めると、その様子に気づいた彼女が、青い空を名残惜しそうした瞳でこちらを見た。 「入院したなんて、知らなかった」 ふと出た一言が、こんな色気もなにもない言葉で自分自身も驚いた。 よろよろと彼女のベッドに近づく。 あんなに柔らかそうだった頬も、今では青白くこけた頬になり、袖口からのぞく腕も骨ばってマッチ棒のように細い。大学で見た時の明るい彼女の姿はどこにもなかった。 そんな彼女の姿を見ていると、ふと視界がぼやけはじめ、目から涙がこぼれた。 彼女はこんな情けない私の姿を見ていながら、ベッドのふちに顔をうずめる私の頭を撫でた。 「ねぇ、お願いがあるの」
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