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慌てて後を追った。
「いたい! いたい!」と声を出す中年男の腕を逆手に掴んでいる手は大きくて、ほっそりと長く繊細な指をしているのに力強かった。
何事かと驚く周囲の好奇の目の中をその人は悠々と大股で歩き、突き飛ばすようにして男を駅員に投げ渡す。
「痴漢だ」
低く落ち着いた声はどこか人を安心させる深さがあり、もっと聞いてみたいと思わせる声だった。
だけどその人が発したのはその一言のみで、お礼を言おうと近づいた陽を目線で押さえつけ、そのままスタスタと去っていく。
綺麗な手が残像を描きながらスラックスのポケットに入るのを、陽は呆然と見つめた。
ピンストライプの入ったダブルのスーツをすっきりと着こなしたその人の横顔の、整っていながら怖ろしいような雰囲気と、気持ちいいほどに伸びた真っすぐな背に、陽は心を奪われたのだ。
仄かに香ったタバコの匂いに気持ちが騒ぐほどに。
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