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 雑多な飲み屋街を、その人は大股で通り抜けていく。  背が高いので脚のスライドが長い。  陽は小走りになってもなかなか追いつかず何度も見失いそうになりながら、頭一つ分突き出た後姿を必死になって追いかけた。  会ってお礼を言ってどうするのかとは何も考えていない。  その人が「ああ」と言えば、それで終わってしまうのに。  何かきっかけがないかと焦るような気持ちで一杯になる。  もう一度、  もう一度、  あの声を聞けるだけでもいいから。
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