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その人は4階建てビル一階の、重そうな黒いドアに吸い込まれていく。
看板も何もないが、この界隈の雰囲気からするとバーかクラブかお酒を飲む店だ。
それでなくても幼く見られがちな陽は、今はまだ未成年で、ふと回りを見ると場違いこの上ない。
警察が巡回していたら補導間違いなしだ。
それでも立ち去りがたくて、年季の入った黒光りする木のドアの、小さなプレートに書かれた、擦り切れている金文字を未練たらしく見上げた。
「BOB……ボブ?」
この向こうにあの人がいる。
「何か用?」
背後から声をかけられて驚いて振り向いた陽を見て、眼鏡の奥の目が優しそうなおじさんが笑っていた。
ネギだの大根だのがニョキニョキ突き出たビニールの買い物袋を両手に持ち、相当重いのだろう指先が白くなっている。
「バイト? 未成年に見えるけど? お金に困ってる?」
膠着状態の陽に、おじさんはなぜか面白そうに話しかけてくる。
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