◇風の絆◇

3/20
前へ
/175ページ
次へ
 無愛想なその人は大股でフロアを横切り、長い脚を邪魔そうに折りたたんでピアノの前に座る。  背が高いせいかピアノに向かう時に少しだけ猫背になり、それはまるで音を確認する職人のような老獪さがあったが、彼はまだ若い。  マスターの話では30歳位。  ピアニストではないものの、何の仕事をしているのか誰も教えてくれないし、おいそれと話かけられない凶器じみた鋭さが、その横顔にはあった。  名前を哲郎と言う。  マスターだけがそう呼ぶ。
/175ページ

最初のコメントを投稿しよう!

321人が本棚に入れています
本棚に追加