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アルバイト店員達は彼の持つ射竦められるようなオーラに怖気づいて、目を合わせることもできない。
彼も周囲には目もくれない。
週に数度、このジャズクラブに来て黙ってピアノを弾き黙ったまま帰っていく。
不思議な人だった。
やがてその人の綺麗な指先から静かなジャズバラードが零れ出る。
誰もが待ちわびていたはずなのに拍手もなく。
寄りかかるように聴き入る人と、音に漂いながら目を閉じる人と、彼を見つめる女性達の熱い視線でさえも包み込むメロディが、静かな色のない風になってフロアを廻る。
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