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渉の口から出る煙草の煙も、私の口から出る白い息も、静けさの中に紛れた虫の音も葉ずれの音も、空を飛ぶ飛行機もその中にいるだろう人たちも、そして星空も暗闇も、この世界に溶け込んで一つになって、私のいるこの瞬間を作り上げている。
不思議。でも、きっと当たり前。
スッとまた、星が流れた。
「あ、ほら、流れ星」
「うわー、早すぎて三回唱えるなんて無理ゲー」
「さっき言ったじゃん」
二人で笑い合う。ぶるり、と体を震わせると、
「さ、帰ろうぜ。十二時過ぎちゃうわ」
渉が三脚とカメラをしまい始めた。私も首から提げたカメラをバッグにしまう。
もうすぐ今日が終わる。私の今日の一日は、ほんの少し変わったかたちになったかな。
このほとんど暗闇みたいな星空の写真。私の記憶の星空とは全然違うものだけど、きっと今日を思い出すいい写真になるだろう。
助手席に乗り込むと、今まで包まれていた世界の感覚がぱっと消えて、現実の手触りが戻ってくる。
それと同時に、これからあのぐねぐねの山道ドライブをもう一度体験するのだと思うと、私の胃がわずかに疼いた。
「奈美、帰り大丈夫?」
「うー、分かんない。下に着いたら取りあえずコンビニ寄って」
「了解」
車が走り出す。窓の外にはまだ密度の濃い星空があるけれど、それよりも私は目を閉じて、左右の激しい揺れに備えた。
今は星空より世界よりも、真夜中にも営業しているコンビニに感謝しよう!
【 完 】
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