真夜中の風鈴

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 それともう一つ、気に掛かるのは、聞こえてくるのが微かな風鈴の音だということ。隣人の話し声や足音ならまだしも、なぜそんな微かな音が聞こえてくるのだろう。単身者向けの物件とはいえ、普通に生活していて隣に音がダダ漏れになっているわけではない。実際に壁越しの音を煩わしく思ったことは、今まで一度もない。帰宅時、昼間のうちに蒸れ募った空気を入れ換えるため、窓も開けてエアコンを最強にするものの、五分もすれば窓を閉じて適温に調整する。そうなると外部の音は基本的には遮断される。  そもそも、着替えたり、シャワーを浴びたりと、何かの作業をしている時は聞こえる類いの音ではない。聞こえないのではなくて、気に留まらないのかも知れないが、少なくとも、聞いたという自覚はない。ああ、また風鈴の音だと思うのは、いつも深夜、ベッドに入って、目を閉じてからのことなのだ。不快な生活音は遮断されているのに、音量的にはもっと小さい風鈴の音が深夜になって聞こえてくることの不思議。
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