真夜中の風鈴

　バイト先の女の子にその話をしてみたところ、壁の中の鉄骨や配管伝いに他の部屋の音が響くこともあると教えられた。また伝わりやすい音とそうでない音があって、音量の大小だけが問題になるわけではないとも言った。聞くところによれば、その子は学生時代に借りていたマンションで、夜、寝ようとした時に限ってクスクスと笑う声が聞こえてくることに悩まされていたのだという。大家さんに相談したり、幽霊を疑ったり、いろいろ調べた結果、鉄骨伝いで階上の声が壁に反響しているとのことで、最終的には引っ越したのだという。

　若い女の子の一人暮らしでクスクス笑う声が聞こえるなんて、たまったものではないが、それに比べると、風鈴の音とは情緒豊かな騒音だ。ただし、どこから聞こえてくるのかも分からない微かな音色が決まった時間に聞こえてくるというのは、そっちの方が心霊現象っぽい。とはいえ、怖いと思ったことは一度もない。というのは、夜な夜な聞こえてくる風鈴の音には覚えがあったからだ。