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幼い頃に母方の実家で聞いた音だ。祖父が風鈴好きで、田舎に行くといつも縁側には風鈴が下がっていた。年ごとに変わっていて、今年はどんな風鈴だろうと楽しみにもしていた。冬やGWにも訪れたことがあるのに、田舎にまつわる記憶はなぜかお盆のものばかりだ。もしかすると、小学校に上がった最初の夏、風鈴がらみで祖父に褒めてもらったことが強い印象となっているのかも知れない。父母に連れられての帰省なので物心がつく以前より訪れてはいたはずだが、記憶に残る範囲でのもっとも古いのが、その小学校時代の一齣である。
どういう経緯だったか、風鈴の音が去年のと違っているとか、そういう話を祖父に向かってしたようだ。「孝、お前は音の違いが分かるのか」「うん、だって去年のはリンリンだったけど、今年のはチリンチリンだから」「ほう、いい耳してるな」・・・・・・たったそれだけのやりとりだ。どこまでが本当の記憶で、どこからが後に肉付けされた部分かもわからない。しかし、祖父の語った「いい耳してるな」の部分は確かにそのまま正確に記憶されているとしか思えない。そのくらい、記憶の溝に深く打ち込まれている。
思えば、小学校低学年のうちは毎年のように田舎に行っていた。中学校に上がってクラブ活動を始めると、訪れる機会は減り、最近では、以前に行ったのは何時だっけと思い出さねばならないくらいになっている。眠りの縁で耳に届く風鈴は、まるで祖父が顔を見せろとでも言っているようにも聞こえる。今年のお盆は田舎に行ってみるのも悪くない。
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