前編

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たまたまだった。あの夏の日に、あいつと会ったのは。 その日は本当に退屈で、でも一昨日くらい天界に仕掛けにいったので魔界の住人は、大半やられていて再び戦争を仕掛ける雰囲気ではなかった。 だから、1人で下界に降りた。天界と違い、下界では1人でいると誰も俺のことを知らないからだ。 特に人型な俺に、鈍感な人間は気付きもしない。 「ねぇ、あなた!あなたって魔王でしょ!」 後ろを振り返ろうとしたが、背中になにか当てられていた。 「違うよ」 前を向きなおって、そう告げる。でもそいつは信じようとしなかった。 「参ったなー。わかった、俺の負け。俺は魔王だよ。でもなにもしないから、その手に持っているものを離してくれないかな」 「なにかしたら、どうなるかわかっているわよね」 「あぁ」 そいつは俺の背中に当てていたものを離した。それは太い木の棒だった。 「まさかこんなにすぐバレるなんて予想外だな」 振り返ると、青年の姿をした俺と、近い年齢の女性だった。 「なんで魔王がここに?!1人なの?!」 「俺1人だよ、遊びにきていただけなんだ」 「なにかしたら消すわよ」 「なにもしないって」 それからその女性と話し合った。 「俺のこと信用ならないならここにいる間、俺を見張っていればいいだろう?」 最初は嫌そうな顔をしていたけれど、渋々といった感じで、近くの川辺にいった。 「そーいえば君はなんで俺が魔王だってわかったの?完璧に人の姿でしょ」 「わかるわよ、私は、魔王から人間を守るための存在だもの」 「勇者?」 「うーん、神様かな。だから人間には私の姿は見えないし、魔物か人間かわかるのよ。取り分け、あなたの力が強かったから魔王かなって思っただけで」 「神様かー、でも魔王だと知った上で木の棒で反撃ってどうなのさ」 「う、うるさいわね、しょうがないでしょ。いきなりだったんだから」 それから何日かは下界にいた。もちろん、その間ずっと女性はあとをついてきた。 「名前は?」 「え?」 「名前知らないと呼びにくいから」 「魔王に教える名前なんてない」 「そんなこと言わずに」 「第一、人に聞く前に自分から名乗るのが礼儀じゃないかしら。まぁ、魔王に礼儀なんかあるわけ…」 「俺の名前は…えっと俺の名前は」 「言わなくてもいいのよ」 自分の名前がわからなくなっていた。
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