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たまたまだった。あの夏の日に、あいつと会ったのは。
その日は本当に退屈で、でも一昨日くらい天界に仕掛けにいったので魔界の住人は、大半やられていて再び戦争を仕掛ける雰囲気ではなかった。
だから、1人で下界に降りた。天界と違い、下界では1人でいると誰も俺のことを知らないからだ。
特に人型な俺に、鈍感な人間は気付きもしない。
「ねぇ、あなた!あなたって魔王でしょ!」
後ろを振り返ろうとしたが、背中になにか当てられていた。
「違うよ」
前を向きなおって、そう告げる。でもそいつは信じようとしなかった。
「参ったなー。わかった、俺の負け。俺は魔王だよ。でもなにもしないから、その手に持っているものを離してくれないかな」
「なにかしたら、どうなるかわかっているわよね」
「あぁ」
そいつは俺の背中に当てていたものを離した。それは太い木の棒だった。
「まさかこんなにすぐバレるなんて予想外だな」
振り返ると、青年の姿をした俺と、近い年齢の女性だった。
「なんで魔王がここに?!1人なの?!」
「俺1人だよ、遊びにきていただけなんだ」
「なにかしたら消すわよ」
「なにもしないって」
それからその女性と話し合った。
「俺のこと信用ならないならここにいる間、俺を見張っていればいいだろう?」
最初は嫌そうな顔をしていたけれど、渋々といった感じで、近くの川辺にいった。
「そーいえば君はなんで俺が魔王だってわかったの?完璧に人の姿でしょ」
「わかるわよ、私は、魔王から人間を守るための存在だもの」
「勇者?」
「うーん、神様かな。だから人間には私の姿は見えないし、魔物か人間かわかるのよ。取り分け、あなたの力が強かったから魔王かなって思っただけで」
「神様かー、でも魔王だと知った上で木の棒で反撃ってどうなのさ」
「う、うるさいわね、しょうがないでしょ。いきなりだったんだから」
それから何日かは下界にいた。もちろん、その間ずっと女性はあとをついてきた。
「名前は?」
「え?」
「名前知らないと呼びにくいから」
「魔王に教える名前なんてない」
「そんなこと言わずに」
「第一、人に聞く前に自分から名乗るのが礼儀じゃないかしら。まぁ、魔王に礼儀なんかあるわけ…」
「俺の名前は…えっと俺の名前は」
「言わなくてもいいのよ」
自分の名前がわからなくなっていた。
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