第1章 セイレーン

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僕は小学5年の時、海で溺れた事がある。 母には、余り遠くには行かないように言われていたが、海水浴場は賑やかで、ついつい羽目を外してしまう。 僕は妹と、ゴムボートを取り合いしながらはしゃいでいた。 「お兄ちゃん、ずるーい!」妹の怒った顔を尻目に、僕は1人ボートに揺られていた。 気持ちいーい。うとうとして気がつくと、かなり沖に流されていた。周りを見回しても誰もいない。 僕は怖くなって、ボートにしがみついた。 すると突然、大波がボートを揺さぶった。 「うわーっ!」僕は海の中へ投げ出された。 「誰か、助けて!」 僕は必死になってもがいたが、身体が一旦水中に潜ると、中々浮かばない。 やがて、水面から差し込む光が、段々遠ざかって行く。 もう意識も薄れて来た。 お母さん、ごめんよ。 すると海の底から、誰かが僕を抱きかかえた。 え? お姉さんは誰? それは長い黒髪を揺らした、綺麗な目をした少女だった。 もう大丈夫よ。さあ、もう少し我慢して。 そんな言葉が、頭の中から聞こえた。 僕は彼女に抱えられ、光が差し込む方へと上がって行ったのだ。
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