0人が本棚に入れています
本棚に追加
「そうなの、悲しい思いをしたのね」お母さんは、涙目で応えた。
「はい、その海岸沿いは今でもお花を手向けに行くんです」と玲蘭が言った時「それって周防浜の事?」とお母さんが聞いた。
「そうです」周防浜は、海水浴場でも有名だ。
「確か6年前って言ったわよね?」お母さんは僕を見た。
「翔太が溺れたあの事故、確か周防浜だったわ。時期も同じね。それにお父さんの事故も、周防浜の沖合で起こったのよ。何だか偶然って怖いわね」
お母さんは、武者震いをしていた。
僕は何故かその時、セイレーンを思い出した。
玲蘭の顔が、セイレーンと重なって見える。
いや、聖蘭なのかもしれない。
何故かそんな風に感じていた。
玲蘭が帰宅すると、真弓が声をかけた。
「遅かったのね。それよりあなた、どう言うつもり?」真弓は腕を組みながら、睨んだ。
聖蘭の事だと、すぐに分かった。
真弓に引っ張られて、聖蘭の部屋に連れて来られると「何なの?この荷物は!」
そこには、聖蘭が大切にしていた人形が、いくつか並べてあった。
「やっぱり聖蘭が寂しがると思って…」と玲蘭は言葉を濁した。
「あれだけ片付けろと言ったわよね!母親に刃向かう気?」真弓は、玲蘭に平手を食らわした。
「あっ!」玲蘭は、その場にうずくまった。
真弓は気が治らないのか、玲蘭を何度も足蹴りにした。
「ごめんなさい、ごめんなさい」玲蘭は頭を抱え、泣いて詫びていた。
「今度こんな事したら、承知しないわよ!お父さんに告げ口したらどうなるか、分かってるわよね」
真弓はふんっとドアを勢いよく閉めて、階段を降りて行った。
聖蘭、助けて…
玲蘭はしばらく、うずくまって泣いた。
最初のコメントを投稿しよう!