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「お兄ちゃん、何だか最近楽しそうだね」妹の良美が言った。
夕食を食べながら、僕は今日の事を考えていた。
「え?そうかな。そうでもないよ」と白々しく応えた。
「好きな子でも出来たんじゃないの?」とお母さんも話に乗ってきた。
「何だよ、母さんまで」と、僕はコップの水を飲み干した。
「そうよ。ご飯食べながらにやにやしていたら、誰でもそう思うって。気色悪いけどね」と良美は言葉をオブラートに包む事を知らない。
僕は何だか居心地が悪くなり「彼女はそんなんじゃないよ。ご馳走さま」と席を立ち、自分の部屋に閉じこもった。
「やっぱり女なんだ」と2人は顔を見合わせて笑った。
僕は部屋で、今日のあの事を考えていた。
どうして水が、僕らを避けたんだろう?
普通に考えても、水があんな動きをする筈がない。
ふと、あの頃の顔が思い浮かんだ。
もう大丈夫よ…
黒髪を揺らした、綺麗な目をした少女。
そして、眼鏡を外した時の片岡さんの瞳。
どことなく似ていた。
「まさかね。もう6年も前だし」僕はベッドに、身体を投げ出した。
でも…もしかしたら…
「翔太君。私、本当は海の妖精なんです。前から翔太君の事が…事が…」
僕は想像しながら、枕を抱きしめていた。
うおー!とベッドの上をゴロゴロしていると
「お兄ちゃん、何やってんの?」と良美がドアの隙間から、軽蔑の眼差しで覗いていた。
「な、何だよ良美!勝手に覗くなよ!」僕は慌てて喚いた。
「気色悪うー」そう言ってドアをバタンと閉めた。
あちゃあー。よりによってあいつに見られるなんて、最悪だ。
「お母さーん!お兄ちゃんがね」と下で声が響いていた。
やっぱり言うんだ…。
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