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(ん……?)
赤い着物を着た黒髪の少女が高麗川方面を眺めている。
着物姿でここに来る人もいるんだ、と関心を持っていると、不意にその少女と目が合う。
僕は目をそらすことができなかった。
透き通った黒い瞳が、吸い込まれそうなくらい綺麗だったから。
彼女は目を優しく細め、赤い唇を三日月の形にする。
その笑みにドキッとした刹那、彼女がこちらにやってくる。
僕はこっち側に行きたいんだろうなと思っていた。
でも彼女は迷いなく僕のほうに向かってくる。
やがて、薄い肌色にピンク色の爪が印象的な指先は僕の手を優しく握った。
突然のことに手が熱くなる。
一方彼女は、にこにこと笑っていた。
(これは……僕から話しかけるべきかな……?)
自分でもわかるくらい、相当目が泳いでいる。
何を話そう。
小さな混乱の中、僕は言葉を絞り出す。
「あの……どこか座れるところ知らない……? 足が疲れちゃって……」
彼女はきょとんとした顔で僕を見る。
やってしまった。
観光で来ているかもしれない人に変な質問をしてしまった。
僕の印象がマイナスになったかもしれない。
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