出会い

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「こっちだよ」  手を引っ張られ、自然と足が出る。  どうやら僕に対する悪い印象はないみたいだ。  艶のある黒髪を揺らしながら歩く彼女を、僕は改めて観察する。  金色の帯に黒い蝶柄が入った着物。  頭には赤い曼珠沙華の髪飾り。  年齢は見た目からして僕と同じか、ちょっと上かもしれない。 (どこかのお嬢様とか……)  いや、それはない。  お嬢様だとしたら1人でこんなところにいられるわけがない。 「着いたよ」  彼女の声に視線を上げると、高麗川のほとりに来ていた。 「座るとこ、ここ」  彼女は僕の手を引いて、丸太を半分切ったようなベンチに案内する。 「あ、ありがとう……」 「隣、いい?」 「う、うん……」  彼女は着物がしわにならないよう、お尻に手を当てながら座った。  沈黙が始まる。  なぜか黙ったままでもいいと思えた。  景色がそうさせているのか、彼女がそうさせているのか。  僕はオレンジ色の空を眺めながら疲れを癒す。 (ん? 夕焼け?)  嫌な予感がして、腕時計を見る。  時間は16時を過ぎていた。  もう少しで閉園する。  下手するとバスを逃すかもしれない。  僕は勢いよく立ち上がった。 「どうしたの?」 「ごめん、もう帰らなきゃ……」  彼女の瞳に薄く影が落ちる。
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