雨避ける君

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「そういえば名前聞いてないね。名前、何て言うの?」 「名前……名前は!?」  彼女は前のめりになって聞いてくる。  これは聞いた側から名乗るべきだと、遠回しに言っているのだろうか。 「……啓太」 「ケータ……?」 「けいた、だよ」 「ケータ! ケータ! 今日はありがとう! 楽しかった!」  指摘するのが面倒くさくなり、そのまま聞き流す。 「食べるだけだったのに?」 「うん!」 「そっか。僕は名前を教えたから君も――」 「ケータ! 明日晴れる?」  彼女は僕の話を聞いていないのかそれとも意図的なのか、話題を変える。  僕は仕方なくスマホを確認した。 「明日は……雨だ」 「雨……明日会えないね」  会えないのは僕も同じ。  学校があるから。  それより、なぜ雨の日に会えないのかが引っかかった。 「どうして?」 「ケータ濡れちゃう」 「濡れないよ、傘があるから」 「ん~」  何か悩んでいるのか、彼女は眉根を寄せてうなるも、それは一瞬で。 「次、晴れるのいつ?」  と小首を傾げながら聞いてきた。  スマホで再び調べると、次晴れる日は平日だった。 「22日。でも僕、学校があるんだ」 「次は?」 「わからない」  一週間しか表示されない天気予報は、僕と彼女の時間に溝を作る。  僕はその溝を何とか埋めようとする。 「土曜日が曇りなんだけど、その日は大丈夫?」 「曇りはやだ。気分が暗くなっちゃう……次の日は?」 「日曜日は雨だよ」  彼女は再び眉根を寄せ、顔を伏せる。  僕といる時間を気に入ってくれたのか、それとも財布だと思っているのか。  彼女の本心はわからないけど、また一緒にいようとしてくれることは伝わってくる。  僕は彼女の横顔を盗み見ながら、答えを待つ。 「……じゃあ、日曜日にする」 「え、この日、雨……」 「ケータが濡れないならいい」  決意を纏ったような横顔に、僕は承知するしかなかった。 「……わかった。じゃあ、またここで」 「うん。日曜日ね、ケータ」
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