出会い

1/4
前へ
/35ページ
次へ

出会い

 13時51分、埼玉県日高市高麗本郷(ひだかしこまほんごう)巾着田(きんちゃくだ)バス停。  飯能駅北口からバスに揺られ、目的地である巾着田に到着した。  横断歩道を渡れば、道路脇に生えている曼珠沙華が涼しい風に吹かれながら気持ちよさそうに揺れていた。  これから行くのは巾着田曼珠沙華公園(きんちゃくだまんじゅしゃげこうえん)。  この時期になると、約500万本の曼珠沙華が咲き乱れるという。  今まで家と公園の距離があまりにも遠かったため、見に行く機会がなかった。  しかし、高校進学を機に飯能に引っ越したことで、その距離が縮まった。  植物好きな僕にとって、とても嬉しい出来事である。  細い道を抜けると、右に高麗(こま)川が現れる。  途中、醤油の香ばしい匂いを鼻で味わいながら、土手で咲く曼珠沙華に導かれるように入場口を目指していると、緑色のテントが見えてきた。  逸る気持ちを抑えながら入場料を払い、入場券片手に足を踏み入れる。  その瞬間、世界が赤と緑に染まった。  曼珠沙華の綺麗な赤が奥まで続き、緑の茎も花の邪魔にならない程度に色めいている。  ところどころ、幹の細い木が生えており、森を彷彿させる。  木の葉が太陽を遮っているせいか、日差しはあまり入っていなかった。  そのため、ひんやりと澄んだ空気が一帯を包む。  僕はスマホのカメラで何度も写真を撮る。  どこを歩いても赤と緑が続く。  しゃがんで一輪だけ撮ろうとすれば、白い曼珠沙華も咲いていて、それも一緒に収めた。  一旦満足したところで、僕は空いているベンチを探す。  体力が限界だったんだと思う。  疲労が一気にやってきた。  公園にはベンチがいくつかあったので、そこに行くまでの道を辿る。  しかしどこに行っても、ベンチは空いていなかった。  今日は3連休の2日目。  ベンチは杖をついたお年寄りたちの憩いの場となっていた。  席が空くまでここに立っていようと思ったそのときだった。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加