スイカ

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スイカ

 蝉の大合唱。太陽の大主張。その主張に賛同するヒマワリ畑のヒマワリたち。  そんな季節なのに、私はまだ夏という実感が湧かないでいた。タンクトップにショートパンツ姿で扇風機に当てられながら、縁側で寝転んでいるというのに。さらに、左手にはアイス、右手にもアイス、といった二刀流まできめているのに。  生ぬるい風と冷たいアイス。味は何でもよかった。  中学に入り、友達もできた。その友達には彼氏もできた。その友達の友達も彼氏ができた。 みんな知り合いだった。別に悪いとも悔しくとも思わない。ただ、毎年みんなで行っていた花火大会も、今年は行かない。寂しいというより、心に大きくまぁるい穴が空いたようだった。それは田舎町にある、唯一の夏のイベントで、毎年夏休みに入る日の夜に行われていた。  毎年、その日は朝から心がそわそわしていて、おやつを食べた後にお母さんに髪を結ってもらい、おばあちゃんに浴衣を着付けてもらい、夕方になるとヒマワリ畑に集合してみんなで河原に行った。  それがない日なんて考えたことがなかった。夜空に響く花火の音は、夏休みを走り出すピストル音だったのに、今年は夏がないのかもしれない。  アイスの棒を7歩先にあるゴミ箱に投げてみる。そうしたら綺麗にストンと入り、少し気分が晴れた。でも、もう1本を投げるとフチにあたり外へ落ちる。結局、ゴミ箱まで行かないといけなくて、炎天下の訓練をしている兵士のように、ほふく前進でゴミ箱へ向かう。 「さなえ下手くそだな」  縁側の外から声がして、その姿のまま首だけを後ろに回す。 「はる!」  そこには幼馴染のはる(本名はみつはるというのだけれど、時々忘れてしまうぐらい”はる”で馴染んでいる)がいた。 「それに何だ、その兵士は」  はるは何でもお見通しだった。お構いなく前進を続けた。 「どうしたの」 「あぁ、これ!今年も良い出来だぞ」  はるは、ドンッと縁側にスイカを置いた。とっても大きくまぁるい。 「今年もありがとー」  アイスの棒にたどり着き、でもなんか悔しいから、ダンクシュートした。 「あと、さ。」  私はまた首だけを回し、はるを見る。 「今日の花火、二人で行かないか」  心にスイカがすっぽりハマった。  私の夏がきた。
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