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「んー、わかった……て、塁ちゃん、なんて格好してるんだよ」
「ん? 目の毒だった? 青少年」
笑うように言われてがくりときた疾風は、それでも塁には感謝していた。感謝はしていたが、しかしそれはないだろうとも思っている。
「一応、年頃の男の子だからな。それは止めろ」
「いいじゃん、いいじゃん」
ほらほら、とでも言うように見せびらかすように露出度の高い格好で目の前をうろうろされると、疾風は目のやり場に困る。スレンダーな肢体に、そのくせ豊満な胸に同級生にはない色香を感じる。たった10歳しか違わないはずなのに、底抜けに明るくて子供みたいな性格なのに、塁は間違いなく大人の女性だ。
「あんた、やっぱり野球好きだね」
「まあね」
「私にはさっぱりだ。だいたい、何、タイブレークって」
疾風は苦笑して塁を眺める。
「塁ちゃん、彼氏?」
「彼?」
「今日のごはん」
「ああ、ないないお客さん」
「色気ないな」
「そりゃあ、こんなに大きい子持ちですから、ねえ」
にこやかに笑う塁は、さあ用意しようとばかりに立ちあがった。面白そうに言う塁にどれだけ救われているか、塁はきっと知らないだろう。
去年の夏、疾風の家族が乗っていた車は大事故に巻き込まれ、奇跡的に生き残った疾風は、大好きな野球を奪われた。
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