駿足の夏

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 特別打撃が凄いわけでも、守備が凄いわけでもなかった疾風の唯一の武器は、名前に負けない駿足だった。第二のイチローか、と異名をとるくらいに足だけはずば抜けて早かった。 『普通に生活をおくれるくらいには回復します。……ですが、スポーツは……』  鮮明に記憶に残る、突きつけられた絶望。それでも希望を捨てずにリハビリに励んだ甲斐があって、事故で足に大怪我を負ったとわからないくらいに回復した。  けれど、駿足は戻らなかった。  失くしたものは、夢と希望と家族。  スポーツ推薦で行った学校には何とか残れることになった。出席日数ぎりぎりで進級もした。両親がいなくなって、疾風を引き取るのを渋る親族には、意外と冷静な目で嫌だろうなと気持ちに片を付けた。 『だったら、私が疾風の保護者になる』  派手な格好をして、親族に蔑むように見られていた塁が威勢よく言った。 『でもねえ』  引き取る気もないくせに、顔を見合わせて渋る親族に 『私がダメって言うんだったら、あんたらが引き取るの?』 と、それはそれはびっくりするくらいの冷たくて完璧な笑顔で黙らせた。  そこまでしなくてもいいのに、と思うくらいに行動は早く、気付いたら塁の息子になっていた。塁が何故行動を急いだのかは後に慰謝料やら保険金やらの話が出たときに分かったことだが、その時はなんて行動力のある人だろうと感心した。     
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