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まだ、野球にひきずられていた疾風に
『野球の情熱を、勉強に変えたら? 高校野球は選手じゃなくても出られるでしょう?』
と、綺麗に笑って発破をかけた。大学費用はこれ、と慰謝料と保険金の入った通帳を渡された疾風は更に驚いた。
「塁ちゃん、男前だね」
今こうして野球を少しばかりの痛みを伴うだけで見ることができるのは、塁のおかげだろう。
びしっと髪をセットし、涼しげな色合いの着物で現れた塁は
「夕飯代ここね、じゃあね、息子くん」
と、手をひらひらとさせながら言う。
「はいはい、ありがとね、母さん」
「いや、止めて、あんたに母さんなんて言われたら、どっと年取った気がする」
「はいはい、塁ちゃん、ありがとう」
もうひとふんばりしようか、と疾風はテレビを消し、問題集に向かった。
今年の夏は、穏やかに通り過ぎていく。
おわり
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