第一章  初恋の花

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細波が寄せる浜辺の道を制服を着た一組の男女が微笑みながら歩いて行く。ともに中学二年生の、藤堂千佳と池田達也であった。ふたりは家が隣どうしということもあって、幼い頃からまるで兄弟のように育ってきた。達也は4年前に最愛の母を亡くして,今は市会議員の父と二人暮らしである。ともに一人っ子という点では千佳も達也と同じであったが千佳には両親も祖父母もいた。父は順調に会社を経営していて、母は家事に専念していた。父方の祖父は、外資系会社の役員として今はカナダで祖母と共に暮らしている。二人ともいわゆる裕福な家庭で育ち、特に千佳はそういう面では何不自由なく今の年齢を迎えていた。ともあれいつもこの二人が肩を並べて歩いていても、街に住む誰もが不思議には思わなかった。いや、むしろ一緒でない方が不自然にさえ感じていた。 『兄妹でもああはいくまい』と二人の爽やかな笑顔は人々の目に、現在(いま)多くの若者たちが失ってきた何かを蘇らせてくれた。 今日もまたいつものように夕陽を受けた二つの影がその身長の倍ほどの長さで地に並んでいた。 その短い方の影が止まった。 『ね、たっちゃん久しぶりに砂浜に降りてみない!?』     
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