第一章  初恋の花

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千佳は頬に特徴的な小さなえくぼを浮かべて言った。 『そうだね』 達也は笑顔で頷き、さっさと石段を降りて行く千佳に続いた。達也には気がつくはずもなかったが、千佳にとって今の達也はもはや、幼友達の感覚ではなかった。いつ頃からなのか、千佳の心の奥深くには、達也に対する「愛」がそっと芽生えていて、淡い初恋の香りが清純な千佳の心の中に漂っていた。砂浜に降りると海を渡ってくる夏の名残を含んだ潮風が千佳の髪を優しく揺らしていった。太陽は、今日の思い出を運んでいくように、今その姿を隠そうとしている。千佳は小石を海に向かって投げた。千佳がここに来ると必ず見せる仕草である。小石はまるで 今の千佳の心を物語るようにあくまでも透明な海水に揺れながら沈んで行く。 海面には小さな波紋が広がりすぐに消えた。 千佳は気づいていた。自分の達也に対しての「愛」に。しかしそれが「恋」であることには、まだ気づかなかった。     
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