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「愛と恋」この微妙な言葉の違いさえが今の千佳には必要だった。ただそのどちらにせよ確かに千佳はこの年代に相応しい女性としての心の扉を開こうとしている。そして千佳の、決して早くはない初恋の相手が達也であることは至極自然であった。 今日まで物心がついてから幾年(いくとせ)千佳と達也の間には何事も隠し事をしないといった不文律のようなものが自然と生まれていたが、千佳は少しだけその約束を破っていた。
千佳の性格からして今更、達也に向かって 「好きになったみたい」などとは言えなかったのである。
しかし、この時、もし千佳の精神がもう少し大人に近かったら、それとも、もう少し思いのままを言える子であったなら今、この日暮れの浜辺はその心の一部分を告白するにふさわしい情景であった。だが千佳はそのどちらでもなかった。
「もうすぐテストだね。今度の数学は範囲が広いからいつも以上に苦しみそう」
千佳が海を背にして、手についた砂を払いながら達也に言った言葉が、この場での会話の始まりだった。
「そうだね。特に中2の2学期のテストは僕達にとって一番大切な時だもんな」
「たっちゃんは大丈夫よ。頭いいから!普通にやっておけば、何てことないじゃない」
「そうはいかないよ。もうそろそろ全国を見なければいけないし………。学校での成績が良ければいいってもんじゃないだろ」
「それって私たちの学校のレベルが低いっていうこと!?」
千佳が達也に近づきながら言うと
「そうはいかないよ。
もうそろそろ全国を見なければいけないし………。学校での成績が良ければいいっ てもんじゃないだろ?」
達也は千佳の眼差しに向かって言った。
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