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こどもたちはプールがだいすき
都内某所の小学校に勤務をしていた時の話です。
プールに幽霊が出ました。
二五メートルプールの、第二レーンの真ん中。一番深くなるあたりで泳いでいると、足を引っ張っられるというのです。
子供たちの話を聞き、事故が起きてからでは遅いと思いました。
プールの授業を中止にするべきだと訴えた私を、学年主任の体育教師は鼻で笑いました。
「あのねぇ先生、幽霊なんかいるはずがないでしょう。非科学的なことをおっしゃるのは……なんといいますか、先生はそういったご病気なんじゃないですか?」
職員室が、軽い嘲笑で満たされました。
当時、『そういったご病気』だった私は、それ以上何も言うことはできませんでした。
プールが中止にならずに喜んだのは、生徒たちでした。
子供たちはプールが大好きです。幽霊は、子供たちの遊び道具の一つになりました。
足を掴まれた、じゃあ手は? 胴は? 二組の山崎は髪の毛掴まれて鼻ふさがれたって。怖えー、俺たちもやろうぜ!
そんなふうに、遊園地のアトラクションのように楽しんでいました。
学校史を調べてみましたが、プールでの死者はゼロ。事故も一件もありません。
笑っている子供たちを見るうちに、私も心配しているのが馬鹿馬鹿しくなりました。
この世界に幽霊などいない。たまたまプールで不可思議な現象が起こっているだけなのだと。 もしそれが幽霊なのだとしても、子供に愛されている幽霊は、悪いものではないのだ、と。
「だから幽霊などいないと言ってるんですよ。やはり先生は頭が少し、ねぇ?」
学年主任の言葉に、俯くことしかできませんでした。
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