17人が本棚に入れています
本棚に追加
夏
雲のカタチが変わったら、すぐに夏休みが来る。
校門の前で「気をつけて、また明日」と繰り返しながら、そんなことを考えていた。
低学年の子供たちが帰宅する時間。来年からはクラス担任を持つ。登下校の校門立ちんぼは、今年で終わるはず。
「おはよう!」から始まって「また明日!」って終わる一日は、なかなか素敵な日常だった。
「アオキせんせい!」
そんな声で振り返った。副担任をしているクラスのオマセ女子。
「藤本さん、西田さん、さようなら。朝顔持って帰るの?」
二人は顔を見合わせてクスクスと笑う。
「あしたは、えのぐとケンバンもってかえるの」
「そっか、計画的だね」
そんな私たちの後ろを
「せんせい!バイバーイ!」
水筒を振り回しながら、数人の男子たちが帰っていく。
「はい、また明日」
そちらを見て手を振った。
「ほんと男子ってバカ。あした、ぜんぶもってかえるのかしら。計画性がないわあ」
オマセ女子達の言葉に少し笑った。ほんとに同い年でも男子はちょっと幼い。
「計画性なんて難しい言葉知ってるね」
笑いながら言った言葉に、彼女の顔がパーっと明るくなる。
そうだ、こんな瞳の光。子供は本心で褒められると、こんな瞳の光を放つ。
誰だって人生のターニングポイントがある。
それがなんだったのかなんて、わからない人もいるのかもしれない。
私はわかっている。
まちがいなく、あの夏。
彼らとの出逢い。
あの出逢いで私は、真っ直ぐに教師になる道を目指した。
最初のコメントを投稿しよう!