あの夏

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◆ 食事が始まるなり、6歳のスバルが箸に刺して(かか)げたコロッケが床に落ちた。 なぜコロッケを掲げる必要があったのか、男子の思考はよくわからない。みんな同じものがお皿にあるんだから、見せびらかす必要もないのに。 スバルは拾ったコロッケをテーブルの上に置いて、じんわり涙を浮かべている。お皿には千切りキャベツだけが小山のようにある。 ちょっとかわいそうになって私のをあげようとしたら、ベテランリーダーの京さんにダメだって言われた。 「自分のしたことは自分が責任を取る。スバル、おかずないからご飯とキャベツ食べなさい。落としたコロッケ食べるなよ!お腹痛くなるぞ」 冷たく言って自分の女子チームに戻って行った。 男子チームは一瞬静かになる。でもすぐに喧騒は戻ってくる。 シュンとしたスバルが気になってチラチラ見ていたら、隣にいた10歳タケルくんが自分のコロッケを4つに分けて、ひとつをスバルのお皿に黙っていれた。 と、反対の隣にいた8歳ユウくんも真似るように同じことをした。彼も黙っている。 スバルは目をぱちくりしてから、小さな声で 「ありがとう」 と言ってひとつを口に入れる。 やるな、10歳。     
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