あの夏

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あの夏

「カナタ、ボランティアどうするの?」 雫の声に振り返る。 「とりあえず、この夏で行く。来年からは実習あるし」 4月に始まった大学生活は、それほど呑気ではない。とりあえず教職を取ったらスケジュールはいっぱいになった。就職が厳しかったら教師って道も選べるかななんて、お気軽に考えてしまった。 バイトと学校、高校生活とさほど変わらない。おまけに社会学部は来年から実習三昧だ。 「今年の夏で子供関係のボランティアやって、来年の夏は実習だから、三回で老人福祉系行こうかな」 「かたいかもね、就活に」 『ボランティア経験は就職に有利になる』 超氷河期の就職活動で疲れきった先輩が教えてくれた。少し未来のためのボランティア。 そう思っていた。 ◆ 〈4歳から11歳までの子供たちの離島サマーキャンプリーダー〉 そんな話を持ってきてくれたのは、バイト先の先輩。 「おまえ、根性あるから推薦してやるよ。今年は俺、行けないし」 特に探してもいなかった。渡りに舟。 そんな話をしたら雫も行くと言い出した。先輩もOK。可愛い雫にニコって頼まれたら断れないよね。 そうして私と雫は、三泊四日離島ちびっこキャンプのリーダーになった。 もちろん無給。ボランティアだから。
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