空飛ぶ猫

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 某公立高校の教室、嬉しい楽しい栄養補給の時間帯。  火事に停電、それから幽霊。ランチタイムに昨夜の体験談を話していたら、会話を遠巻きに聞いていたクラスメイトたちから非難された。反対意見が募るばかりで特に女性陣は辛辣だ。 「なんでこんな昼間に怪談なんてするかね」 「ただでさえ、ネズミを食うネコという話だけで、ぞっとしないのに」 「もっとこう夜のおどろおどろしい雰囲気があるときにさあ」 「そうじゃないだろ」 「メシ食いながら〈死体〉を想像したくないんだってば」 「――ポッポ、もっと空気読め。あんた変だ」  変人とまでいわれてしまった。  うちのクラスの女子たちはみなさん強い。入学して一か月ちょっとのほとんど初対面の男子に対してびしびしイエローカードが出る。  我が友トラちゃんはというと、いつものように窓際に陣取り弁当を広げている。制服とネクタイをだらしなく着崩しながら、素知らぬ顔(女子にいじられる僕に助け船を出してくれない)で校庭を眺めている。 「――お、ルーレット。派手な奴がいるな」  サッカーに興じる男子たちの躍動を観察しているらしい。元サッカー部のトラちゃんが感心するほどのテクニックは確かに気にはなるけど、僕としては、より謎めいて不可解な現象のほうに心が傾いてしまう。 「昨夜の〈空飛ぶ猫〉はなんだったのかなあ」 「幽霊でなけりゃ、地球人をめろめろの骨抜きにするために来訪した猫型UFOだったんだろ。どっかで〈メン・イン・ブラック〉が暗躍してるんじゃねえの」 「アメリカの都市伝説じゃないんだから」 「じゃあ、なんだ。――UFOの正体見たり枯れ尾花か? こちとら猫が空を歩く光景をしかと目撃したんだぞ。どういうわけだ。説明してみやがれってんだ」 「それがわからないから困ってるんじゃないか」  トラちゃんは歯がゆそうに箸を八重歯でがじがじと噛む。  相談する相手を間違えたようだ。  ディベートに強い人というと、僕の身近にはひとりくらいしかいないのだが……あの人には猫の話は切り出しにくいんだよなあ。
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