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風に願わば
ハロー、ハロー。
僕の声はあなたに届いていますか?
聞こえていたら、ちょっと歌をうたってほしいんだ。
誰もいないところで歌っていても淋しいだけ。僕は吟遊詩人(バード)でもないから、ひとりで歌っても、たぶん声はあの人に届かない。届かない言霊はうつろになって消えるだけ。
だから、みんなで歌うための物語を作ってみたんだ。
――ひとりじゃない、あの人にそう気づいてほしいから。
思うところあって、僕は絆(きずな)という言葉を嫌いになった。
それは暖かく人をつなぎとめる言葉、裏を返せば、人を束縛する枷(かせ)となる言葉だ。誰かと絆が深くなるほど、その枷は重くなる。絆はたがいの自由を奪い、そしていつしか心を癒すんだろう。
藍は紅に変わるように。
その意味の表側だけを信じてはだめ。
本当は〈絆〉なんて、優しい言葉ではなかった。うっかり口にした言葉でも、その言霊はときに人を傷つけていることもある。
それでも前を向いて、僕のほうを見て、この物語を聴いてほしい。
あなたにはうつむいていてほしくない。
微笑みを忘れてほしくない。
歌を話して物語を語れば、海を越えてはるか遠い空の向こうに、僕はきっと風に乗って旅することができる。いつかあなたのところに行けるから。
たぶんそう思うことに理由なんてないんだ。
だから逃げないで。
怖がらずに扉を開けて、この歌を。風に願わば、きっと想いはあなたに届く。
空に向かって、みんなで一緒に歌をうたえば。
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