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かつて妻だった死体を前に、篤彦は後悔はなかった。もとより、美代の方を愛していた。『沙織』など美代に比べれば、取るに足らない存在だった。世間体のために丁度良い女だったから、結婚したまでだ。
そもそも、美代は、『沙織』と結婚する前からの付き合いなのだ。『沙織』と結婚したのは二年前だが、美代との付き合いは、それよりも遥か前からあった。深い関係になったのは、三年前。妻と初めて体を重ねるより前に、篤彦は美代を抱いていたのだ。
美代との絆は何よりも深い。篤彦はそう確信していた。だから、この逆境も、乗り越えられる。
篤彦は、美代とほぼ同時に果てた。美代は、汗にまみれ、精魂尽き果てたように、ぐったりとしている。篤彦は、そんな美代に、再び優しく口付けを行った。
その後、二人は再度、シャワーを浴びた。美代の汗ばんだ白い肌を洗っていると、首筋に、いくつか赤い斑点があることに気が付く。これは、自分がつけたキスマークだ。
そこで篤彦の中に、悪戯心が生まれた。首筋に、何度も口付けをする。わざと、跡が残るように、強く吸う。篤彦の意図を知った美代は可笑しそうに、やめて、と笑ったが、まんざらでもなさそうだった。
シャワーを浴び終え、二人は昼食に移った。メニューはハンバーグだ。真夏の昼には重い食事だが、精がつくようにと、美代が作ってくれたものだ。慣れ親しんだ、美代の料理。
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