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 篤彦は、首元に切れ込みを入れ、そこから皮と肉の間にナイフを挟み込む。そして、皮を引っ張りながら、肉と皮の角度が鋭角になるようナイフを添わせ、剥いでいく。  糊で張り付いている布を、引き剥がすような感覚に似ていた。内蔵の時もそうだったが、思ったよりもスムーズに、剥ぐことができている。創造主は、生物のパーツを単純に組み合わせただけで済ませたようだ。ちょっとしたことで、これらのパーツは、バラバラになってしまう。  とは言え、いくら簡単に進められても、相当の重量物だ。おまけにこの暑さである。終わる頃には、汗だくになっていた。再び、脱水症状を引き起こしそうだった。  篤彦は、皮をほぼ全て剥ぎ終えた『それ』に目を向ける。豚や牛の解体工場に吊り下げられているような、肉の塊と化していた。しかし、『それ』の原型はまだ損失しておらず、生々しさと、グロテスクさは健在だった。ブロック分けすれば、今度こそ本当に、解体工場の肉と化し、気持ち悪さはなくなるだろう。  ゾーリンゲンのナイフを置いたところで、背後に人の気配があった。  振り向くと、ガレージに入ってくる美代の姿が目に入った。手には、糸鋸と、水の入ったペットボトルを持っている。  「どう? 進んでいる?」  美代がペットボトルをこちらに手渡しながら、そう訊く。     
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