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 「まあまあだよ。思ったよりスムーズに捌けているけど、時間はかかりそうだ」  篤彦はそう答えると、受け取ったペットボトルを開け、中の水を一気に飲む。相当喉が渇いていた。それを察して水を用意するとは、さすが美代。長年連れ添っただけのことはある。  「あとどれくらいかかりそう?」  美代は、篤彦の肩に手を載せる。つい、その手に触れそうになったが、今は手が汚れていた。美代の手を汚したくはないので、我慢する他ない。  「完全に解体するまで、三時間といったところかな」  「そう。わかった」  美代は、頷く。美代は左手に糸鋸を持ったままだった。美代の妖艶な肉体と、糸鋸という物騒な道具のギャップに、異様なほどの色気が、美代から発せられている気がした。  「どうしたの?」  篤彦の舐めるような視線に、美代は怪訝な表情をする。  「美代」  篤彦は言った。  「キスしてくれ」  篤彦の唐突な頼みに、美代は面食らう。その顔付きですら、愛おしい。  「もう」  美代は、すぐに柔らかい笑みに変わった。自身にかけられた頼みが、嬉しくて仕方がないといった様子だ。  美代は篤彦の正面に回り込み、優しく口付けをしてくる。本当は抱き締めたかったが、手のせいで、それはできない。  キスを終えた篤彦は、再び作業に取り掛かった。     
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