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 篤彦は、心の中でかつて妻だった女を毒づく。  美代との関係を知った『沙織』の罵倒を今でも覚えていた。夜叉のような顔、とはあのような顔付きを言うのだろうと、篤彦は確信した。人間の醜悪さを凝縮したような、醜さがあった。  美代との関係が発覚したのは、まさしく、この部屋、このベッドの上だった。『沙織』が休日出勤でしばらく帰ってこないだろうと、すっかり油断していた。今にして思えば、『沙織』はすでに二人の関係を看破しており、確信を持って戻ってきたのではと思う。もしかすると、休日出勤自体、嘘だったかもしれない。  篤彦は、悶え続ける美代に、口付けを行った。美代は夢中で吸い付く。  戻ってきた『沙織』は、行為に及ぶ二人を発見し、強く罵った。汚物でも見るような目で二人を見てきた。  しかし、許されないことが起こった。『沙織』は、美代を平手で叩いたのだ。あのゴミ女が。俺の美代を。  頭の中がマグマのように真っ赤に染まり、気が付いたら、『沙織』を絞め殺していた。目玉が半分飛び出て、舌が驚くほど外へと垂れ下がっていたのを今でも鮮明に覚えている。     
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