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カルテロの物語/A letter to Tony Winper
気がつくとさわやかな朝風が波のように顔を洗っていた。
ベッドのすぐわきに窓があって、半分開いたその向こうには、土色の荒地とコバルトの青い空が広がっていた。視界の半分は、垂木と梁、柱。天井のない屋根裏部屋のようなつくりの部屋だった。ベッドは柔らかい。それ以外の調度はあまりない。まるで自分を寝かせておくために急ごしらえにつくられたようだ。
行かなければ。
そんな思いが、どこか胸の深いところから声となって呼びかけてきた。自分は旅の途中だったはずだ。目覚めたばかりだからか、他の理由からか、何処へ何のために向かっていたかは思い出せなかった。だが、確かに自分は旅の途中だった。
起き上がろうとした。身じろぎをしただけで全身に激痛が走った。身体を見た。腕と言わず、肩といわず、いたるところが包帯に覆われていた。
少し記憶が甦った。
閃光。雷鳴。悲鳴のようないななきをあげて倒れる馬。彼は投げ出された。何が起こったのかはわからなかった。真夜中の豪雨のなかだった。何もかもが今・こことは違っていた。違っていないのは、そのときから始まった激痛が、まだ続いていることだけだった……
食べ物の臭いで目が覚めた。
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