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「来年はもう少し早く来ようよ。」
来年も一緒にいる保証はどこにもないのに、あの頃の君も同じような事を言っていた。
何故だろう、この時期になると、やっぱり色々と思い出してしまうな。
嬉しいような嬉しくないような。
「そうだね。」
あの頃の僕はなんて言ったんだっけ。
自分と重ねてしまう後ろ姿から目を逸らして、右手で自転車を抑えたまま左手で自動販売機から缶を取り出した。
冷たさが皮膚を気持ちよく刺激する。
そういえば去年の夏も、1人で花火を見ながら思い出してたんだったな。
君の横顔と手の温もり。
大きく開いたオレンジ色の花火が今年も夏がやってきたことを僕に知らせる。
彼女といたあの世界は、見当たらない。
手を繋いで歩いた、花火に見守られて笑いあったあの世界。
缶を開け、口に含んだメロンソーダで、
彼女の唇の味を思い出して、
少しだけあの頃に戻れた気がした、
夏の話。
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