もしも山田君が飛べるようになったなら

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 それにわたしは以前、山田君が、横断歩道で重たい袋を持ったおばあさんを助けて歩く姿を見かけている。  学校の帰りだった。たまたまわたしは日直で、いつもより遅い帰宅時間で一人で道を歩いていた。飛行して帰るのは、友達みんなといる時だけ。一人で飛ぶのは浮かれているみたいで、なんだか恥ずかしいのだ。  山田君がおばあさんを手伝って歩道を渡り終えたのを見届けて、わたしも走って歩道を渡った。  周囲には誰もいなかったし、今なら山田君に話しかけられると思った。  「いいことするじゃん」  べしと背中を叩いてやった。山田君は滅相もないという顔をした。  「僕は地面を歩くばっかりだから、歩いている人のことが嫌でも見えるんだよ。空を飛べていたら、ばーちゃんを手伝う事もなかったと思う」  山田君はそう言うと、ちょっとだけ恥ずかしそうにして、わたしから顔をそむけたのだった。  そう言う山田君の顔や手は、傷だらけ。今日も一人で校庭で飛ぶ特訓をしていたんだろうな。  先生が付きそう日もあるけれど、一人で自主練習する日のほうが多い。たった一人で、糞真面目にトラックを走って、青いラインで踏み切って、空に羽ばたこうとして、べちゃんと落ちる。  なかなか飛べない、山田君。     
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