もしも山田君が飛べるようになったなら

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 雨の日も、風の日も、暑い日も、寒い日も、山田君は、野球クラブの子たちが活動をする校庭の隅っこで、コツコツと自主練する。  時々、体育の先生が笛を鳴らしながら、飛ぶタイミングのアドバイスをしていることもある。  「その、青い線に集中しなさい。青い色だけを目指して、そこで踏み切って。そして、上を見たら青い空があるから、青に吸い込まれるつもりで。ハイ、もう一度っ」  どべべべべ、と走り、ピッ、と笛が鳴ったら踏み切って、お尻を上に持ち上げるようにして空に向かう。もう少し、だけど駄目だ、どすんべとん。顔面から土の中に突っ込む。  「うっわー、無駄だからやめればいいのにー」  「最悪、かっこわるーい」  女子グループが、笑いながらそれを眺めた。そして、校門を出ると同時に軽々と踏切り、意気揚々と大空に飛びあがる。すうい、くるくる。赤いランドセルがいくつも空に舞う。ちゅんちゅんちちっ。電線に止まっていた雀たちの群れが大急ぎで逃げてゆく。  わたしは、仲良しのまーちゃんと二人で、地道に歩いて校門を目指していた。     
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