青の肖像

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教授はいつも青色のネクタイをしていたので、てっきりその色がお好きなのだとばかり思っていた。だから私もこっそりとノートやピアス、マニキュアなんかを青色にして、毎日1つは彼に近づけるように努力していた。 枯れ木に花は咲かないものだと揶揄されても、気にとめる暇もないほどの恋だった。そうしてこの夏、私ははじめて、真っ青な海色のワンピースを着て大学へ行く。 講義が終わり、教授に近づくと、彼は私の格好をしげしげと眺めてから口を開いた。 「良い色ですね」 まぶたを伏せてほんの少しだけ口角を上げる、その上品な笑い方が好きだった。 「買ったばかりなんです。似合うでしょうか?」 「ええ、とても」 声も出ないほど興奮する私とは裏腹に、教授は至極淡々と言う。 「そういえば、君は青色が好きなのですか? よく身につけているように思います」 「はい、好きです! あ、いやでも……正確には、青色が好きなのではなくて、好きな人の好きな色が、青色なのです」 「それは奇遇ですね。私も昔好きだった人が海が好きで、青色を見るとよくその人のことを思い出すのです。  好きな人の好きな色は、眺めているだけでも幸福ですから」 そう言って教授は、自身のネクタイに軽く触れた。そうしてもう一度私の格好をしげしげと眺めてから、あの上品な笑い方で目を細めている。 「良い色ですね」 幸福だった。 たしかに、この生涯最大の勘違いに気がつくまでは。
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